あったかくて、人の心に残ることを。 あったかくて、人の心に残ることを。

小田島工務店が考える“地域の未来"

『手を感じる、
地域の工務店へ。』

 もともとはこの地域で米農家を営んでいたという先代(現社長の父)が小田島工務店を立ち上げて、創業60年あまり。社長・小田島誠戦略室長・小田島百里の父娘が、新体制で臨む今後の地域の工務店の在り方について、今思うことを言葉にしました。

親子写真

取材:澁谷和之(澁谷デザイン事務所) | 写真:高橋 希(オジモンカメラ)

取材:澁谷和之(澁谷デザイン事務所)
写真:高橋 希(オジモンカメラ)

古きを守り、残し、
そこに新たな“再発見"を

社長(以下、「社」)ここ最近のこの業界は、古くても使えるものは使う、またその古いものの良さを活かしながら再発見するという気運が高まってきていて、新しいものを建てる・作るというよりも、今のものを守る・守っていくという意識が、うちの会社においても強まってきています。

社長写真

 住宅一つ見てみても、今の状況は昔とだいぶ変わってきていて。その時々の家族構成に応じた必要な設計はするけれど、その後子どもは大きくなっていくし、家族が減ることもあるし、最初建てた時の使い方も年数が経てば当然変わってくるものです。その自然な変化に合わせたリフォームやリノベーションを施し、今あるカタチを最大限に活かし、息づいたものに昇華させていくことが求められる時代です。

 最近周りでよく聞くのが、子どもたちがみんな進学や就職で家を出て行ってしまって、広い家を持て余してしまっているという家族の問題。もっと家族構成の変化に応じて無理なく持続できる、住み良い住宅の在り方が問われています。核家族化と空き家の増加が進む中で、昔のものをできるだけ残し、地域の一要素としての住宅の在り方も見つめ直していくべき時だと感じています。

グラウンドは、
グラウンドのままがいい

戦略室長(以下、「戦」)地域のことを考えた時に、やはり学校という場についても色々考えさせられていて。学校という場は地域のアイデンティティであり、地域住民みんなの心の拠り所みたいなところがあるので、今現在増え続けている廃校の在り方・機能の考え方は、今まで以上にもっと慎重にあるべきだと思っています。

戦略室長写真

 学校のグラウンドにしても、昔は地域の親子みんなが集って運動会をしてたとか、そんな記憶や思い出が蓄積している場所であることを、もっと我々建設業者はじめ地域みんなで自覚し、守っていく意識が必要な気がしています。つまり、学校が廃校になってしまっても、グラウンドはグラウンドのままの風景として残しておくことが地域にとっては健全な場合もあるわけで。地域のみんながグラウンドを懐かしんで来て、走り回ったりするだけでも、それは地域のエネルギーになるわけですし。

 長く使うという意味を履き違えた使われ方も実際目にします。ハードとしての建物や土地が既にそこにあるなかで、そこにどうソフト面での機能を探っていけるかは、今後の建設業者と地域に暮らす住民に求められる大事なデザイン思考ではないでしょうか。

そろばんでお勘定をしてくれた
お店の記憶

戦|町・商店街という部分で地域を観てみると、美郷町の商店街も昔はもうちょっと栄えていたじゃないですか……。小さな雑貨屋さんや玩具屋さん、駄菓子屋さんなど、もうそこに行くだけで楽しかったような、そんな場所。誕生日プレゼントを買うといえば、みんな同じお店に行っちゃうような。そんな地域の記憶となる場が近くにあるのとないのとでは、きっと将来の地域の見え方・感じ方は違ってくると思いますね。

 今の子たちにとってそれは、全国どこにでもある大型ショッピングモールの中のゲームセンターとか雑貨屋さんになるわけですけど……、やはりどこか、その土地・地域でものを買うってことに対する意識は薄いような気がします。

戦略室長写真

 やっぱり「六郷の、あそこさ行って、あそこで買った!」っていう記憶も含めて、商店街の在り方を大事に考えたいですね。だから今の子どもたちが、これから10年後とか何年か後この地域に立った時どういう気持ちが彼らの中に残っているんだろうか……?と思うことがあります。
うちの事務所の近くには、地域に愛され続けている昔ながらのお店があるんですが、そこのお店なんかは私が幼い頃に習字の塾の帰りに駄菓子を買いに行っていた記憶があって。未だにあの頃と変わらず、そろばんでお勘定をしてくださったり。そんな何気ないことが、とても地域にとって大事な気がしています。

地域みんなの意識を
育てていくという役割

社|何年か前、建築士会の全国大会で県外に出向いた際に、倉敷に立ち寄ったのですが、倉敷というところは、建て方も昔のままのやり方・技術で、やっぱりその町並みは素晴らしいんです。外壁ひとつ見てもやっぱり漆喰ですし、昔ながらの職人の技術がそこにしっかり根付いている。だからいい街だなって素直に思える。そして、それがその地域全体の考え方や感性にもなっているんですよね。地域の人たちの理解というかね、考え方があるからそういう町並みが成り立ちますよね。地域のみんなが技術の一つひとつを良いものだと思えるから、この町並みを残そうという意志が自然に立ち上がるのだろうと感じました。

雪景色写真

 家を一つ建てるといったら普通は半年以上かけて仕上げていくものですが、秋田のこの辺だと、雪の関係もあって三ヶ月半とかでチャチャチャっとやってしまうこともあって。住宅のこと、学校・グラウンドのこと、そして町・商店街のことって、みんなで時間をかけて大切に進めていくことが大事で、そんな地域みんなの意識を育てていくことも、これから我々の業種には求められていくのではないかなと感じています。

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